「やま偉ヒト(やまいひと)」とは、山梨で活躍するの偉人のこと。
山梨県で地域に愛を持って活動している偉人たちを紹介する特集シリーズです。
地域の発展や人々の生活を豊かにするために尽力する人物にスポットライトを当てていきます。
【やま偉ヒト_002】笛吹市立浅川中学校3年 曾根琥太郎さん
笛吹市スコレーセンター(笛吹市石和町広瀬)で12月7日、甲府地方法務局と山梨県人権擁護委員連合会が主催する「第44回全国中学生人権作文コンテスト山梨県大会」が開催されました。
同コンテストは1975年(昭和50年)に法務省が全国で開始。人権尊重思想の普及と次世代育成を目的に、中学生の日常体験から人権問題を考察した作品を募集。 山梨県大会は毎年12月の人権週間と連動して実施され、応募締切は同年9月4日。第一次審査を人権擁護委員、最終審査を法務局員ら13人が行いました。過去入賞作品は新聞やホームページで公開されています。
今回、第44回で山梨県人権擁護委員連合会長賞を受賞した浅川中学校3年の曾根琥太郎さんをやま偉ヒトシリーズ第二弾としてインタビューしました。記事後半では受賞した作文全文も紹介します。

「第44回全国中学生人権作文コンテスト山梨県大会」表彰式では、県内の中学生21人が表彰状と副賞を授与された。
曾根琥太郎さんと妹の蒼生さん、人権イメージキャラクターの「人KENまもる君」と「人KENあゆみちゃん」、じんけん大使のヴァンフォーレ甲府マスコットキャラクター「ヴァンくん」と「フォーレちゃん」。
ヘアドネーションとの出合い

伸ばした髪を美容院で散髪した時の様子。
曾根琥太郎さんは小学3年生の頃、テレビでヘアドネーションを知りました。 病気や怪我で髪を痛めた人々にウィッグを提供するこの活動に感銘を受け、髪を伸ばし始めたそうです。 当時、30cm以上の長さが必要だったので、3年間切らずに伸ばし続け、小学6年生の春に美容室でカットし寄付に成功しました。
この出来事からジェンダー差別への違和感を、「男の子だから髪は短いほうがいい」という社会の基準を問題視する。 性別による決めつけが個人の自由を奪うと指摘し、人々の違いを認め合う社会を望みます。
曾根琥太郎さんは卓球部員としても活躍し、第62回笛吹市中学校新人体育大会個人で優勝するなど、多面的な活動で地域に貢献しています。
――この作文を書いたきっかけは何ですか。
小学低学年のヘアドネーション経験を、人権の視点から振り返りたかったからです。周囲の反応がジェンダー問題を浮き彫りにしていて、書く中で考えが整理されました。
――受賞の感想を教えてください。
授賞式で他の受賞者が実体験を発信する姿を見ました。多くの人に知る機会となり、この経験をこれからも発信していくことが重要だと感じました。
――これからの目標は何ですか。
自分や周りが自由に選択できる社会を目指したいです。他人の容姿や行動を性別で判断せず背景を想像して、自分の信念を貫きたいです。他人が自分らしくいる時に支える側に立ち、社会を温かく自由に変えていければと思います。
山梨県人権擁護委員連合会長賞を受賞する様子。
▽作文全文
「らしく生きる」
浅川中学校 3年 曾根琥太郎
「おい、ここ男湯だぞ。」 小学生の頃、温泉施設で見知らぬおじさんにそう声をかけられた。私は思わず振り向き、「あ、僕、男です。」と答えた。そのときのおじさんの驚いた顔を今でも覚えている。
私は小学生の頃、髪を伸ばしていた。ただのおしゃれのためではない。当時はよく「女の子みたい」と言われたり、間違えられることは日常茶飯事だった。「なんでそんなに髪が長いの?」と聞かれたりもした。最初のうちは「ヘアドネーションをするために伸ばしてるんだよ。」と説明していたが、次第にその説明すら面倒に感じるようになっていた。
私が髪を伸ばし始めたのは、テレビで「ヘアドネーション」という活動を知ったのがきっかけだった。病気や怪我などで髪を失った人たちに、切った髪を寄付してウィッグを作る取り組みだ。画面に映った、ウィッグをつけて笑顔を見せる人たちの姿が、私の心に強く残った。「自分の髪で誰かを笑顔にできるなら、やってみたい。」そう思って、髪を伸ばし始めた。
ヘアドネーションをするためには、三十センチメートル以上髪を伸ばす必要があった。私は小学三年生の頃から髪を切らずに伸ばし続け、小学六年生には寄付できる長さにまで達していた。しかし、その三年間は、楽なものではなかった。髪を伸ばしていることについて、まわりの反応はさまざまだった。女の子に間違えられるのはもちろん、出掛けた先では、「あの子、女の子なの?男の子なの?」と陰でひそひそと話をされることもあった。
「男なのになんで髪伸ばしているの?」「早く切った方がいいよ。」と心ない言葉を言われたこともある。
そんなとき、支えてくれたのは家族だった。母や祖母は「琥太郎がやろうとしていることは立派なことだよ。」と励ましてくれたし、妹も「長い髪似合ってていいよ。」と背中を押してくれた。その言葉に何度も救われた。そして、髪が十分に伸びた小学六先生の春、美容室でついにカットをした。長く伸びた髪がはさみで切られていくとき、不思議と寂しさよりも達成感と満足感でいっぱいになった。これでやっと自分の髪が誰かの力になれる。本当にうれしい経験だった。
この経験を通じて、私は「ジェンダー」について深く考えるようになった。なぜ「男の子は髪が短くあるべき」と思われるのか。なぜ髪を伸ばしているだけで、「おかしい」と言われるのか。私はただ髪を伸ばしていただけだ。もし私が女の子だったら、同じ長髪でも何も言われなかっただろう。それは、性別によって「普通」とされる基準が違うからだ。「普通じゃない」と見られる現在のこの社会に、強い違和感を覚えた。
性別によって「こうあるべき」と決めつける考え方は、私たちの自由を奪ってしまい、行動や気持ちにまで影響を与えてしまう。それはその人の個性や意思を無視することにつながってしまうと思う。
もし私が「男の人だから髪を短くしなさい」という声に従っていたら、ヘアドネーションをやりとげることも、自分の行動に誇りを持つこともできなかっただろう。
人はそれぞれ違う。考え方も、感じ方も、見た目も、性格も、そして性別も。その「違い」を認め合える社会こそが、本当にやさしくて自由な社会だと思う。自分と違うからといって否定したり、笑ったりするのではなく、「そのような考え方もあるか」と受け入れることができれば、きっともっと生きやすくなる。時代の変化とともに、価値観もアップデートしていかなければいけない。
私はこれからも、自分や周囲の人が自由に選択できる社会を願い続けたい。そして、誰かの見た目や行動を性別で判断しそうになったときには、自分の経験を思い出し、「その人の中にある理由や想い」を想像するようにしていきたい。
「男なのに」「女の子っぽい」といった言葉に流されることなく、自分の信じたことを大切にして生きていきたい。そして誰かが自分らしくいようとしているときには、それを笑ったり否定したりするのではなく、「応援する側」でありたい。
そんな人がひとりでも増えれば、この社会はもっとやさしく、そしてもっと自由になるはずだ。性別にとらわれず、一人ひとりが自分らしく生きられる社会こそが平等な社会だと私は信じている。
編集後記
山梨県の地域に愛を持って活動する人物を紹介するヤマ偉人シリーズの第2弾は、第44回全国中学生人権作文コンテスト山梨県大会で山梨県人権擁護委員連合会長賞を受賞した浅川中学校3年の曾根琥太郎さんの取り組みを紹介しました。
12月10日は世界人権デー。1948年に国連総会で採択された世界人権宣言の公布日で、人権尊重の機会として各国で啓発活動が行われています。この記事を読んで少しだけ人権について考えるきっかけになればうれしい。