
山梨県立男女共同参画推進センター「ぴゅあ総合」(甲府市朝気1)で7月6日、国際協力セミナーが開催された。主催は山梨県、共催はJICA横浜。
当日は、ガザ出身の医師アブラエーシュ博士に迫るドキュメンタリー映画「私は憎まない」の上映と、日本国際ボランティアセンター(JVC)酒寄静流さんによる現地スタッフとのオンライン中継を通じたパレスチナの現状報告が行われた。併せてJICA海外協力隊パネルも展示。当日は約40人が参加した。
映画「私は憎まない」は、ガザ地区で医師として活動し、紛争下で3人の娘を失いながらも憎しみではなく共存の道を選び続けるアブラエーシュ博士の姿を描く。博士の半生とその信念は、国際社会の関心を集めてきた。今回の上映は、地域住民にパレスチナ情勢や平和について考えるきっかけを提供することを目的に山梨県国際交流協会が企画した。上映後には、日本国際ボランティアセンターの酒寄静流さんが、現地スタッフとオンラインでつなぎ、パレスチナの最新状況や支援活動について話した。
2024年からJVCで活動し、コリアやパレスチナなどの現場経験を持つ酒寄さんは「ガザ地区では、人口の約45%が14歳以下で、その7割が難民という現実が続いている。陸・海・空全てが封鎖され、若年層の失業率は60%を超える。1967(昭和42)年の第3次中東戦争以降、イスラエルの占領下となり、2005(平成17)年のイスラエル軍撤退、2006年のハマース選挙勝利と欧米支援停止、2007年からの本格的な封鎖と、複雑な歴史的経緯がある。2023年10月7日以降は被害が深刻化し、2025年7月初旬時点で死者約5万7000人、負傷者13万人以上、建物の70%が破壊され、210万人全員が深刻な食糧不足に直面している。完全に機能する病院はなく、スマートフォンのライトで手術を行うこともある。急性栄養失調の子どもは7万人規模に上る。私たちJVCは現地パートナーと連携し、乳児用粉ミルクや医薬品の配布、母子栄養プログラムなどの緊急支援を続けている。日本国内でも停戦要請声明や募金、署名活動を呼びかけている。日本からできることは、書籍や映画で現地の歴史や現状を学ぶこと、寄付や署名で連帯の意思を示すこと、SNSで情報を共有し『忘れさせない』こと。遠い国の出来事のように思えるかもしれないが、一人一人の関心や行動が状況の改善につながる。今後も現地の方々と共に、少しでも安心して暮らせる社会を目指して取り組みを続けたい」と話した。
ガザ在住の中村さんはオンラインで「ガザでは封鎖下で避難所が既に過密となり、多くの人が破壊された自宅や空き地に戻らざるを得ない状況が続いている。安全確保には程遠く、日常的にドローンが上空を飛行し、通信も傍受されていると指摘。一方、市民ジャーナリストがスマートフォンを使い、現地の実情を発信し続けている。人道支援も妨げられており、一部武装グループが支援物資を略奪して闇市場で転売する事例や、治安悪化による国連トラックへの襲撃も発生している。医療現場は逼迫(ひっぱく)し、限られた医薬品を『1人分を3人で』分け合う事態も起きている。子ども用栄養補助食品は比較的入手しやすいが、量は圧倒的に不足している。イスラエル側では極右勢力の影響でネタニヤフ政権が戦闘継続を選択し、『パレスチナ人強制移住』シナリオを推進する声もある。日本はイスラエル・パレスチナ双方とチャンネルを持つため、停戦仲介や人道支援拡充で大きな影響力があると考えている。現地の現実を知り、支援や発信を続けてほしい」と呼びかけ、現地の生活や人々の声を伝えることで、遠い地の出来事を身近に感じる機会となった。
パネル展では、山梨県と縁のある協力隊員の活動や国際協力の歩みを写真や資料で紹介。JICA海外協力隊は1965(昭和40)年の発足以来、世界99カ国に延べ5万7000人以上の隊員を派遣し、教育や医療、農業など多岐にわたる分野で現地の人々と協働してきた。山梨県からも多くの隊員が参加し、地域と世界をつなぐ役割を果たしている。パネル展は、これまでの活動の成果や現場の様子を広く伝え、国際協力への理解を深める内容を展示した。
参加者からは「世界の現状を知る貴重な機会になった」「自分にできる支援を考えるきっかけになった」などの声が聞かれた。